高松地方裁判所 平成10年(行ク)1号 決定 1998年8月04日
徳島県鳴門市撫養町立岩字六枚一七七
申立人
山本ヒトミ
右訴訟代理人弁護士
宇津呂公子
香川県高松市天神前二番一〇号
(送達場所 同市丸の内一番一号 高松法務局訟務部)
相手方
高松国税局長 伊藤齊
右指定代理人
鈴木博
松本金治
東田幸子
改田典裕
和泉康夫
宇野秋則
加藤公一
主文
本件申立てを却下する。
理由
一 申立ての趣旨及び理由
1 申立ての趣旨
当庁平成一〇年(行ウ)第一号所得税更正処分等取消請求事件(以下「本件訴え」という。)の被告高松国税局長中村淳二を被告鳴戸税務署長吉原幸昭に変更することを許可する。
2 申立ての理由
(一) 申立人は本件訴えの提起に当たり、被告を鳴門税務署長とすべきところ誤って高松国税局長とした。
(二) 申立人が右のとおり被告を誤ったのは次のような理由によるものであり、申立人には重大な過失がなかった。すなわち、申立人代理人は、鳴門税務署長が平成八年三月五日に申立人の平成四年分所得税についてなした更正及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、まとめて「本件処分」という。)につき、異議申立てに対する決定後の審査請求の際、高松国税不服審判所担当者から審査請求書の原処分庁欄に鳴門税務署長と記載されているが高松国税局長の誤りであるから職権訂正しておく旨指摘されたこと、審査請求書に「原処分」という不動文言が記載されていたこと、及び、国税通則法九三条一項に「審査請求の目的となった処分に係る行政機関の長(第七十五条第二項第一号(国税局の職員の調査に係る処分についての異議申立て)に規定する処分にあっては、当該国税局長。以下「原処分庁」という。)」とあるのを見落としたことから、本件処分の処分名義は鳴門税務署長であっても、国税通則法七五条二項一号により、上級庁であり審査請求における「原処分庁」である高松国税局長が行政事件訴訟法一一条の「処分をした行政庁」として本件処分の取消権限を行使するものと誤解し、高松国税局長を被告として本件訴えを提起したものである。
(三) 行政事件訴訟法二〇条は、原処分主義を誤解して裁決取消しの訴えを提起した場合には処分取消しの訴えを追加して併合提起できると規定しており、法規の誤解のみによって違法主張の機会を奪われることを避けようとしている。税法関連法規は複雑で難解であるから、同法一五条による被告の変更の許可にあたっても、「故意又は重大な過失」はできるだけ緩やかに解すべきである。また、同法一五条の「故意又は重過失」につき、代理人が弁護士である場合にはこれを厳格に解するとすれば、本件訴えの原告である申立人が、弁護士に依頼したために被告の変更を認められず、処分の違法を主張する機会を失うことになり不合理であるから、代理人の「故意又は重過失」についても緩やかに解すべきである。
二 当裁判所の判断
1 本件記録によれば、申立人代理人は、申立人の訴訟代理人として、高松国税局長を被告として、所得税にかかる本件処分の取消しを求めて本件訴えを提起したことが認められる。
ところで、所得税については申告納税方式が採用されており(国税通則法一六条二項一号、所得税法一二〇条一項)、納税地を所轄する税務署長は、自ら又は国税庁若しくは国税局の職員の調査に基づいて納税申告書にかかる課税標準等又は税額等を更正することとされている(国税通則法二四条、二七条、三〇条一項)。また、右更正に基づく過少申告加算税(同法六五条一項、二項)については、納税地を所轄する税務署長が賦課決定を行うこととされている(同法一六条二項二号、三二条一項三号、三三条)。そして、所得税の納税地は納税義務者の住所地とされている(所得税法一五条一号)ところ、本件記録によれば、申立人の住所地は肩書住所地と同じであり、同所を管轄する鳴門税務署長が本件処分を行ったことが明らかである。
そうすると、本件処分の取消しを求める本件訴えは、高松国税局長ではなく、鳴門税務署長を被告とすべきであり、申立人は本件訴えの被告を誤ったことになる。
2 そこで、申立人が被告を誤ったことにつき故意又は重大な過失があったかどうかにつき検討するに、本件記録によれば、本件処分の通知書には鳴門税務署長冨安泰一郎が本件処分を行ったことが明記されていたこと(甲一六)、申立人代理人は本件処分につき異議申立ての段階から手続に関与し、高松国税局長に対する異議申立書及び国税不服審判所長に対する審査請求書においては、いずれも申立人が鳴門税務署長から本件処分を受けた旨主張していること(乙二、四)が認められる。
なお、本件記録によれば、本件処分に関する裁決書には「原処分庁高松国税局長」との記載があること(乙五)が認められるが、前記1のとおり本件処分の処分庁は鳴門税務署長であり、高松国税局長は、国税通則法七五条二項一号、九三条一項により、本件処分についての異議申立て及び審査請求の各手続に関与したに過ぎないことが明らかである。
そうすると、本件訴えの原告訴訟代理人であり弁護士である申立人代理人は、訴え提起に当たり、本件処分が鳴門税務署長によってなされたことを十分認識していたのであるから、「処分の取消しの訴えは処分をした行政庁を被告として提起しなければならない。」と規定する行政事件訴訟法一一条一項を検討すれば、鳴門税務署長を本件訴えの被告とすべきことは容易に判明し得たものといえる。本件処分が高松国税局の職員の調査に基づき行われ、その裁決書表紙には「原処分庁高松国税局長」との記載があることから、申立人代理人が「処分をした行政庁」を「高松国税局長」と誤解したものとしても、同代理人において鳴門税務署長が本件処分をなしたことを知悉している以上、右判断を左右しない(なお、右裁決書二頁には、鳴門税務署長は原処分庁所属の職員の調査に基づき、本件処分をした旨の記載もある)。
したがって、高松国税局長を被告として本件訴えを提起したことは、申立人代理人が弁護士として要求される注意を著しく欠いたものといわざるを得ず、申立人代理人のかかる不注意の効力は申立人にも及ぶから、申立人が被告とすべき者を誤ったことについては重大な過失があったものと解するのが相当である。申立人の前記一2(三)の主張はいずれも採用することはできない。
よって、主文の通り決定する。
(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 橋本都月 裁判官 廣瀬千恵)